今日が2019年最後の日となります。
みんなにとって、この2019年はどんな年でしたか。
「桐朋だより」の2019年最後の文章は、校長の片岡先生の月曜朝礼のお話をのせたいと思います。
ぜひ、頭と心を働かせながら、じっくりと読んでほしいと思います。
大好きなみんな、それから保護者のみなさま、学校に関わる全ての方々、良いお年をお迎えください。
みなさん、おはようございます。
今朝は2019年最後の月曜朝礼です。
今年も残り二週間ばかり、年末恒例の話題がいろいろと聞こえて来ます。
12日の木曜日には、日本漢字能力検定協会が、その年の世相を表す漢字一文字を「今年の漢字」として発表しました。
全国から寄せられた21万6,325票のうち、約3万票を獲得した「令」の字が選ばれ、各メディアがこぞって報じていました。
4月1日に発表された新しい元号の一文字ですので、多くの人が「令」の字を思い浮かべたのは、それはそれで自然なことでしょう。
一方、今月2日に発表された「新語・流行語大賞」、その年間大賞に選ばれたのは「ONE TEAM」という言葉でした。
日本中を熱狂の渦に巻き込んだラグビーワールドカップでの日本代表チーム「ジャパン」の合言葉ですね。
実を言うと、先生は「今年の漢字」も、ラグビーと関係のある漢字が選ばれるのではないかと思っていました。
ラグビー「ジャパン」の愛称は「ブレイブ・ブロッサムズ」、シンボルマークは「桜」です。
「ブレイブ・ブロッサムズ」とは「勇気ある桜の戦士」といった意味になります。
「ジャパン」の戦い方はまさにその言葉通りの印象でした。
だから、勇気の「勇」か、あるいは「桜」のどちらかが選ばれると思っていたのです。
「今年の漢字」の投票数で、「桜」が18位、「勇」はランク外だったのが、先生はとても意外でした。
今年5月、川崎市登戸駅で起きた事件、あるいは今年7月に京都市伏見区で起きた京都アニメーションの事件など、言葉に出来ないようなおそろしい出来事が起きるたびに、人と人とを結びつける信頼とか共感といったものが急速に薄れ、他人に対して抱く残酷で冷たい心をコントロールできなくなっている今の社会の現実に、私たちは言葉を失いました。
そんな時、一人では立ち向かえないような高い壁に文字通りスクラムを組んでぶつかる勇気や、そこから生まれる信頼の尊さを示してくれたのがラグビー「ジャパン」の闘いだったのではないでしょうか。
今年の夏に出版されて話題となった一冊の絵本があります。
リチャード・T・モリスさんの『かわにくまがおっこちた』という作品です。
川に落ちてしまった一頭のクマが、木につかまりながら川を下っていきます。
クマの頭にぴょんと乗っかったのは一匹のカエル。
カエルはずっと一人ぼっちで友達を探していたのです。
続いてちょっと臆病なカメが、船長気取りの元気なビーバーが、さらに、陽気なアライグマたちも加わります。
どっしーん!ぶつかったのはアヒルです。アヒルは急に仲間が増えて世界が広がったように感じます。
右へ左へ、ジェットコースターのようにスリル満点の川下り。 突然、みんなの目の前がぱっと開けます。
何と、滝です。
クマはカエルにつかまって、カメはビーバーに、ビーバーはアライグマに、アライグマはアヒルにつかまって…「ばっしゃーん!」滝の下で目を開けると、みんなの笑顔がありました…とまあ、こんなお話です。
ポイントは、もともとは川のそばでみんな別々に、関りも持たずに生きていた動物たちが、互いにつながった瞬間から冒険が生まれ、世界が開けていくというところにあります。
12月11日朝日新聞『折々のことば』で、この絵本の作者のモリスさんがあと書きに寄せている言葉が紹介されていました。
「まったく違った個性を持った他者を受け入れることは非常に難しい。
けれど、異なる他者との結びつきがなければ、人間は自分の一番の長所にも気づくことはできない。
自分にあるのが強さなのか弱さなのか、おそれなのか勇気なのかは、他者を通してでしかわからない。」
人間は、他者とつながり、社会を作ることでこれまで長い歴史を築いて来ました。
未来をひらく鍵も、きっとそこにあるのだと思います。