「先攻?後攻?」
7月に入ってから、新型コロナウィルス感染症に新たに感染した人の数が、東京都を中心に非常に多い数字を記録しているのを見ると、私たちにわからないところで、感染が拡がっているのかも知れないと心配になります。一方で政府は、屋外の会場で充分な間隔を取れば、参加者5,000人までのイベントを開催することができるというルールを新たに定め、7月10日からはプロ野球やJリーグで、観客を入れての試合が始まりました。無観客試合であってもテレビで観戦する限りはたいして変わらないかも知れませんが、スポーツ好きな人にとっては生の観客の歓声もまた、スポーツの欠かせない魅力のように感じられるでしょう。昨年のラグビーワールドカップのように、スタジアムを埋めた数万人もの観客が大きな感動を共有するような、素晴らしいスポーツイベントが、一日も早く開けるようになるといいですね。
ところでみなさん、サッカーの試合が始まる前に、両チームのキャプテンが、レフェリーが弾いたコインの表が出るか裏が出るかで、何かを選んでいるのを目にしますよね。あのコイントスに勝ったチームは、コートかボールかを選ぶことができるのです。コートを選ぶということは、前半はどちらのゴールに向かって攻めるか、その向きが決まるのですが、ボールを選べば、自分たちのキックオフから試合を始めることになります。どちらでも勝敗にはあまり関係がないように思えるのですが、昨年5月のU-20ワールドカップを調べてみると、コイントスに勝ったらコートを選択するというチームの方が、キックオフを選ぶチームの倍以上に多いのだそうです。
プロ野球では、ホームチームが後攻と決まっていますが、ふつう私たちが野球をする場合は、じゃんけんで先攻・後攻を決めますね。かつて『週刊ベースボール』という雑誌が、夏の甲子園大会の過去100回の決勝戦を調べてみると、先攻のチームが勝ったのは44回、後攻のチームが勝ったのは54回(中止が2回)ということで、後攻がわずかに有利という結果が出ました。でも、2011年から栃木県大会を9連覇し、2016年夏の甲子園で優勝した経験を持つ栃木県の作新学院は、その9年間の県大会・甲子園大会のうち、3分の2の試合を先攻で戦っていたそうです。後攻が必ず有利という決まりがあるわけではなく、チームの特徴によっては先手を取る方が有利ということなのでしょう。
これは7月4日朝日新聞「天声人語」にあった話です。よく、「ヘビににらまれたカエル」という言葉を耳にしますよね。何となく、恐怖で身がすくんで動けなくなった絶体絶命のカエルの姿を想像しがちです。自然界でも実際に、カエルとヘビのにらみ合いが一時間近くも続くことがあるそうです。でも、京都大学の西海望博士のチームの研究によれば、実はあの不動の姿勢こそカエルにとっては最善の防御策だというのです。
研究チームは、シマヘビとトノサマガエルを向かい合わせて何度もビデオ撮影を行い、分析しました。実験の結果、カエルはもし先手をとって跳躍すると、空中で進路を変えることができないため、ヘビに動きを読まれてつかまる危険性が高まるのです。一方でヘビも同様に、かみつく際に折り曲げた身体をバネのように一気に伸ばしますが、最初の攻撃が空振りすると、再攻撃のためにまた身体を曲げる時間が必要になり、その間にカエルが逃げてしまうのです。西海教授のチームはのべ300時間をかけてこの研究を行い、あのにらみ合いは、お互いが相手の動きを読みつつ、一瞬のチャンスをつかもうとする高度な戦略だったことを突き止めました。
囲碁や将棋であれば、先手必勝という言葉はうなずけるように思いますが、たとえば柔道や剣道、フェンシングなど、一対一で向かい合うスポーツの場合はどうやって、一瞬で相手の動きを読むのでしょうね。