【小学校のみなさんへ】
4月も残りわずか、いつもの年なら教室はゴールデンウィークの話題でもちきりでしょうね。静まり返った、誰もいない校舎のまわりを歩きながら、みなさんの来る日を待っている花たちの様子を見て来ました。
中庭に面した花壇では、色とりどりのチューリップがラッパのように春の音を奏でています。チューリップは花の色ごとに花言葉が異なるそうですが、紫のチューリップの花言葉は「不滅の愛」だそうです。
サツキのいる飼育小屋の横に可憐な花を咲かせるのは、コデマリ(小手毬)でしょうか。花言葉は「努力の人」。清潔な白い色が、みやばやしの緑に映えています。
木々の梢では、たくさんの野鳥が春のあいさつを交わしています。いつもみやばやしに元気に響いているみなさんの歓声が一瞬、聞こえたような気がしました。早く、普通の日々が戻って来てほしいと心から思います。今日は、そんな鳥たちの鳴き声についてのお話です。
片岡 哲郎
プレイバック月曜朝礼⑦
「春のさえずり」(2016年4月18日)
みなさん、おはようございます。今朝は2016年度最初の月曜朝礼です。一時の桜の華やぎも去って、国立の街にはもう、わき上がるような若葉の季節がやって来ました。みや林を歩くと、たくさんの鳥たちが賑やかに歌を歌っていますね。これからの時期は、鳥たちが家族を作って、ヒナを育てる繁殖期にあたっています。五・七・五のわずか17文字で季節の移ろいや人の心の揺らぎを表現する俳句には、必ずその季節をあらわすキーワード、これを季語と言いますが、そういう言葉が詠み込まれます。「鳥の巣」とか「巣立ち」は春の季語。「百千鳥(ももちどり)」というのはたくさんの鳥が啼いている様子、「鳥の恋」なんていう素敵な季語もあります。
「囀(さえず)りをこぼさじと抱く大樹かな」これは、明治から昭和にかけての俳人・星野立子さんの一句です。たくさんの小鳥たちが、葉の茂った大きな樹の枝にとまり、春の喜びをいっぱいに歌っています。樹は、そんな小鳥たちを一羽たりともこぼさないように、まるで親が子を抱くように枝を広げています。先生はこの句から、やっぱり「学校」を連想します。みなさんの教室が、まさにこんな様子なのだろうと思います。
私たちは、言葉と言葉をつなぎ合わせて文を作り、それによって様々な情報を他の人に伝えています。そういう会話の能力を持っているのは、人間だけだろうと思っています。しかし、総合研究大学院大学の鈴木俊貴さんを中心とする研究チームは、シジュウカラという鳥を観察して、実験を行い、シジュウカラが、異なる単語を組み合わせてより複雑な意味を伝える能力を持っていることを発見したのです。この研究が、3月9日イギリスの科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載されたというニュースが、3月14日の東京新聞コラムで、あるいは3月20日朝日新聞『天声人語』に相次いで取り上げられました。
鈴木さんは、これまでの研究から、シジュウカラが多くの種類の鳴き声を状況によって使い分けることを知っていました。例えば、危険が迫っていることを仲間に知らせる時には「ピーツピ」という甲高い鳴き声を発します。一方、群れの仲間を集める際には「ヂヂヂヂ」というにごった声を発します。鈴木さんらは、シジュウカラが時折この二つを組み合わせて「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と発することを発見しました。この音声の組み合わせは、「警戒」しながら「集まれ」という意味になるのです。例えば、仲間を集めてともに天敵を追い払う際などに用いられます。
そこで鈴木さんらは、スピーカーから「ピーツピ」と「ヂヂヂヂ」を繰り返し流して、シジュウカラの行動を観察しました。面白いことに、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」の組み合わせには反応するシジュウカラは、「ヂヂヂヂ・ピーツピ」の組み合わせには全く反応しないのです。シジュウカラは、単にそれぞれの単語に反応していたのではなく、組み合わせの順序まで正確に理解して、音声の意味を読み解いていたのです。シジュウカラの声は、特定の規則に従って組み合わされ、それによって情報が伝えられる、ヒトの言語に極めて近い仕組みを持っています。これは本当に驚くべきことです。
実はこの研究の中心になった鈴木俊貴さんは、実は今から14年前に桐朋高校を卒業した卒業生で、毎年の桐朋祭でみなさんを楽しませている生物部のOBです。鈴木さんは高校生の頃、巣から落ちたスズメの子を学校で飼育し、頭や肩に乗せて可愛がっていたと聞きました。現在の研究の原点が、桐朋での日々にあったというのも素敵なことですね。
鈴木さんもきっと、春のみや林を歩きながら、鳥たちはにぎやかに何を話しているんだろう?って考えていたのでしょうね。
※ 左から、チューリップ、コデマリ、そしてイチョウの若葉です。