桐朋学園小学校

桐朋だより

月曜朝礼 校長片岡先生の話⑨

【小学校のみなさんへ】
 
 「こころのしるし こむらさき ゆたかににおふ 桐の花」桐朋学園小学校はもちろん、桐朋学園全体にとって、桐の花は特別な意味を持っています。ゴールデンウィークの間、正門から西へ何本もならぶ桐の木が、たくさんの花をつけていました。桐の花は高い枝先に咲くので、その花の色を楽しもうとすればどうしても空を見上げることになります。この時期の青空は、特別な力を持っています。
 私たちが若い頃、よく「五月病」という言葉を耳にしました。若者にとって四月は、新しい生活が始まる希望に満ちた時期ですが、実は、慣れない環境のなかで日々緊張しながら、頑張ろうとしてつい頑張りすぎてしまう気負いなども手伝って、ついつい無理をしがちな難しい時期でもあります。その影響から、五月に入ったところで心が音を上げてしまい、元気がなくなってしまう様子を「五月病」と表現したのです。座り込んで空を見上げたそんな若者たちを励まし、リフレッシュさせたのは、夏の生命力を予感させる力強い五月の青空だったのではないでしょうか。
 今、世界の児童・生徒の約91%にあたる、15億7,000万人もの子どもたちが、新型コロナウィルス感染症の影響で学校に通えずにいます。子どもたちの心がどれだけのストレスとさびしさを感じているか、そのことを思うと私たちは言葉を失います。明日に向かっていく力を、どうか子どもたちに届けてほしい…青空を見上げながら、そう祈ります。
片岡 哲郎

プレイバック月曜朝礼⑨

「桐の花」(2010年5月10日)

みなさん、おはようございます。一年生のみなさんも、今日から朝礼の列に加わって、全校の児童が揃いました。毎週月曜日は、先生がみなさんに少しお話をしますので、ちょっと難しいかも知れませんが、一緒に聞いてくださいね。
日本の古い暦では、夏の始まりの日を立夏と言います。夏が立つと書きますが、今年は五月五日がその立夏にあたっており、ゴールデンウィークを通じて本当に夏のような陽気の好天に恵まれましたから、みなさんもきっといろいろなところに、遊びにいったのでしょうね。先生も一日だけ、鎌倉というところに行って新緑の中を歩いて来ました。
桐朋の四月は、桜・桃・李・海棠など、ピンク色の花が咲き誇っていましたが、五月は、わきあがるような新緑が季節の主役になりました。春から夏にかけて、空の青と木々の緑が日ごとにその濃さを増していく様子は、本当に爽やかで心が躍るようですね。
毎年この時期になると、薄紫色の花をつける印象的な木が二つあります。一つは、藤。この時期、街を歩くと、藤棚を設えた家が意外に多いことに気がつきますね。藤の花は、五月の風と友達です。これほどまでに風の優しさが似合う花は、あとは秋のコスモスくらいでしょうか。たくさんの紫色の花が房になって、風に揺れている姿には、時間を忘れて見入ってしまいます。
もう一つは、これです。これは桐の花です。今、桐朋の前の通りをずっと中高の北門の方に歩いていくと、警備員室の手前のところに、三本の大きな桐の木が、いっぱいの花をつけている様子が見られます。藤の花よりも少し濃い、紫色をしています。桐の花は、学園歌にも心の象徴と歌われているように、桐朋の子どもたちにとって縁の深い、特別な花ですね。
今から千年以上も昔のことですが、京の都の宮廷に仕えた、清少納言という女性がいました。この人は、宮廷での生活の様子を思いつくままに300ほどの短い文章にまとめました。彼女のこの文章は『枕草子』と呼ばれ、日本で最も古い随筆文学として知られています。随筆というのは、見聞きしたり経験したことの感想を、気の向くままに書いた文章のことで、エッセイとも言われます。彼女はこの『枕草子』の中で、花の咲く木についていろいろと書いています。例えば、「花の咲く木では、紅梅が優れている。紅色が濃くても薄くてもそれぞれに素晴らしい。桜は、花びらが大きくて葉の色の濃いのが、ほっそりとした枝に咲いている八重桜に目がとまる。藤の花は房が長く、紫色があざやかなほど見ごたえがある。」というように。
この文章の中で清少納言は、桐の花について他の花よりも少し長めに書いています。彼女が桐の花についてどう書いているか、読んでみましょう。「桐の花が紫色なのはおもしろい。身分の高い人しか着ることのできない色を、植物のくせに平然と身につけている。葉が大きすぎるのが残念だが、花の紫色に免じて特別扱いしたくなる。中国では、鳥の王様にあたる鳳凰というめでたい鳥が、好んでこの木に棲むと言い伝えられているけれど、そんな言い伝えにも桐の木が特別なものであることがあらわれていて、なにやら改まった気持ちにさせられる。まして、この桐の木で琴を作ると、さまざまな美しい音が出てくるところなど、おもしろいなどという世間並みの言葉で軽々しく表現することのできない、大変素晴らしい花木なのだ。」何だか、桐朋のことをほめられているみたいで、ちょっといい気分ですね。
この桐の花のデザインが、みなさんがよく目にするあるものに使われています。それは、普段はお財布の中にあります。わかりますか?そう、500円玉の表面に使われています。お金のデザインは、にせものが作られるのを防ぐために様々な工夫がされていますが、この500円玉の桐の花のデザインにも、実はある仕掛けがされています。それはね、桐の花のちょうど真ん中あたりに、一文字がわずか0.18ミリメートルの小さな小さな文字が彫られているんです。ローマ字でNIPPON、日本の6文字です。同じ文字は、裏面の、500という数字の中にも彫られているそうですが、どんなに目を凝らして見ても、小さすぎて肉眼ではまず読むことはできません。もし、同じ大きさの文字で500円玉の片面を埋め尽くしたとすればこれが何と、17,000字といいますからちょっとした小説ぐらいは楽に書き込むことができるそうです。そんな小さな文字を、いったいどうやって彫っているんでしょうね。

※五月の青空と桐の花

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