月曜朝礼 校長片岡先生の話
「マスクの話」
桐朋学園小学校のみなさん、おはようございます。新型コロナウィルス感染症の拡がりが一定の落ち着きを見せた5月25日、政府は4月7日から続いた緊急事態宣言を解除しました。その後6月に入って、東京都内では一時、東京アラートという言わば注意報が出されましたが、6月11日にはそれも解除、徐々に都民の生活も元に戻りつつあります。6月19日には「県をまたぐ移動」の自粛要請も解除され、先週末あたりは全国の観光地にもお客が戻ったという報道がありました。
桐朋学園小学校はこの6月、オンラインでの授業から分散登校へと切り替えて学校での生活を再開させました。そして今日6月29日、2月の末に休校を決断してから実に4か月ぶりに、全員が一斉に登校する朝を迎えました。お帰りなさい、みなさん。もちろん、東京では新型コロナウィルスの感染者が、このところじわじわと増えていることもあり、不安は尽きません。慎重に、慎重に、全員でこの学校生活を守っていきましょう。
休校期間を通じて、私たちはマスクにずいぶんと振り回されて来ました。以前はドラッグストアに行けば当たり前のように売られていた使い捨てマスクが、全く手に入らなくなり、花粉症の人は特に辛い春を過ごしましたね。最初は仕方なく使われ出した手作りマスクが、洗って繰り返し使えるしデザインもかえっておしゃれだとブームになり、今ではファッションの一部になったといっても言い過ぎではありません。6月に入って、いろいろな有名ブランドが着け心地のさわやかな夏用マスクを開発し、こちらもすごい人気です。これからもまだまだ、マスクが手放せない日が続いていくのでしょう。
ところでみなさん、ベネチアンマスクって聞いたことがありますか?イタリアの有名な観光都市ベネチアでは毎年2月、1162年以来の歴史を持つ有名なカーニバルが開催されます。ブラジルのリオデジャネイロ、それからトリニダード・トバゴの首都ポートオブスペインと並んで、世界三大カーニバルに数えられるものです。ベネチアのカーニバルでは、参加する人々が素性を隠して行動の自由を満喫するためにベネチアンマスクと呼ばれる仮面をつけます。ベネチア土産としても人気のこのマスクは、私たちがしているマスクとは違って目の周囲など顔の上半分を隠すスタイル。のちにヨーロッパで流行した仮面舞踏会の仮面は、このベネチアンマスクがもとになっています。中央大学の山口真美教授の説では、日本人は相手とコミュニケーションをとる際に相手の目に注意を払うのに対して、欧米人は相手の口元に注目するのだとか。だから、欧米人はコロナウィルスの流行に対しても口元を覆うマスクをつけるのに抵抗を感じ、日本人は、マスクには何の抵抗も感じないかわりに、たとえばサングラスをかけた人を警戒する傾向があるというのです。
ところで、ベネチアのカーニバルでは、カラスのような黒い衣装に長いくちばしの仮面をつけた人たちをよく見かけます。その長いくちばしの仮面は、昔、ベネチアにペストという病気が流行した時に、医者が感染防止に被っていたものだそうです。長いくちばしの部分には殺菌作用があると言われていた薄荷などのオイルをふくませた綿が入れられたとか。14世紀から17世紀にかけて、ベネチアは実に20回以上、ペストに襲われています。特に1347年にヨーロッパ中に大流行したペストは有名で、北イタリアからフランス・ドイツ・イギリス、アイスランドやグリーンランドにまでひろがり、5年間でヨーロッパのおよそ3分の1の人々が亡くなったと言われています。
現代と比べて、医学の知識も乏しかった時代に、医師たちはカラスの仮面をつけてペストに立ち向かったのです。一見華やかなカーニバルが、そうした記憶を秘めているというのは、本当に興味深いことですね。