桐朋学園小学校

月曜朝礼の校長片岡先生の話③

【小学校のみなさんへ】

国立の桜が、満開の時を迎えています。

新型コロナウィルス感染症の流行を防ぐために、都内の公園ではお花見を禁止しているところも多くあるようですが、さっそく3月22日の日曜日には、春を待ちきれない人々が多く大学通りに繰り出して、桜の花を見上げていました。

9年前の東日本大震災の春、満開の桜を、せつない思いで見上げたことを思い出します。

今日のお話は、大震災から一年経った2012年4月最初の月曜朝礼です。

文中の映画は今でもインターネットで観ることができます。

『福島県三春町滝桜 日本語版』で検索してみて下さい。

「滝桜」(2012年4月16日)

 

みなさん、おはようございます。

新しい2012年度が始まって、最初の月曜朝礼ですね。

またよろしくお願いします。

この時期は特に、学校の行き帰りに大学通りを歩くと、桐朋学園小学校の通学路は日本一だなあと、誇らしく感じますね。

今年の春はずっと気温が低くて、2月になってもなかなか梅の花が開かずにやきもきしましたが、結果的に桜の開花も10日ほど遅くなって、新学期の始まりが満開の時期と重なったのは幸運でした。

本当にため息の出るような、豪華絢爛たる桜の風景の中で始業式を行ってから一週間が経ち、今、国立の桜並木は春物のコートを脱ぐように、その花を散らしています。

東京で暮らしている私たちにとって、梅は2月の主役で、桜は3月下旬から4月の始めが見頃というのが当たり前の感覚ですが、日本列島は南北に伸びていますので、北国の花の盛りは東京とずいぶん異なっています。

新潟県出身の詩人である堀口大学という人が、こんなことを言っています。

「4月になって、梅桜桃李/あとさきのけじめもなしに/時を得て、咲きかおり…」(4月になって、梅や桜、桃、李などが、われ先にと競うように一度に咲き、良い香りを漂わせている)。

彼の故郷新潟では、桜と梅、桃、スモモが一度に花を咲かせるのでしょう。

花の前線は、梅から桃、そして桜の順に北上を開始するのですが、どうやら北に行けば行くほど、その間隔はせまくなっていくようです。

梅と桃と桜が一度に咲くことを、そのまま名前につけた町が、福島県にあります。

三つの春と書いて三春町といいます。

人口は18,000人、普段は静かな山間の町ですが、この町はあることで広くその名を知られています。

それは、この町にある一本の桜の樹です。

高さ13.5m、枝の広がりは東西25m、南北20m、根元の周囲は11.3m、樹齢は700年とも1,000年とも言われる日本一の枝垂桜です。

高い梢から段を織り成すように、四方八方にまるで滝の流れのように咲くその姿と、その樹が立っている滝という地名から、「三春の滝桜」と呼ばれている、国の天然記念物です。

例年4月の中旬から下旬にかけて、花の見頃を迎えます。

近年では30万人をゆうに超える見物客が押しかけ、満開の時には根元まで2時間以上の行列ができるそうですが、昨年に限っては、全く事情が違いました。

三春町は、福島第1原子力発電所から47㎞のところにありますが、東日本大震災で事故を起した原子力発電所から放出される放射能を恐れて、滝桜が満開になっても訪れる見物客はほんとうに少なかったようです。

福島県出身の映画監督、今泉文子さんは、震災から一ヵ月後の昨年4月11日から、滝桜の前にカメラを据えてずっとその映像を撮り続けました。

昨年の滝桜は4月15日に最初の一輪が開き、4月26日に満開となりました。

今泉さんはその2週間の映像をわずか10分あまりに短縮して、「福島県三春町滝桜」という映画を製作したのです。

この映像は、インターネットで公開されていますので、もし見られるようなら是非見てください。

素晴らしい青空の日もあれば、あるいは風の強い日、雪まじりの雨の日、満月の夜、滝桜は一日一日その表情を変えながら、見事な花をつけています。

作品はその滝桜の変化する姿を、音楽のみで淡々と伝えていますが、それがとても素晴らしいのです。

映像の最後は満天の星空、「福島は私たちの故郷です。」というメッセージが流れます。

原発事故の影響に苦しむ故郷の姿に寄せる思いを、今泉さんは無言のまま見事に表現しています。

桜前線はこれから東北地方を北上します。

岩手県出身の歌人・詩人の石川啄木は「皐月は、一年中最も楽しい時である。天下の春を集めて、そしてそれを北方に送り出してやる時である。」と描いています。

被災地・東北に暖かい春が巡ってくるまで、あと一息です。

 

写真は、3月22日の国立駅前の桜です。

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