桐朋だより

1年生との幸せな会話

「〇〇先生、たろうくんが探していたよ」

教員室のドアが開いて、1年生の女の子が2人、大きな声で私のことを呼びました。

そうだった。私はある約束をすっかり忘れてしまっていたことに気がつきました。

それは今朝のこと、1年生が使う中庭のながしで手をあらっていると、たろうくんに話しかけられました。

「〇〇先生、今から遊ぼう」

「ごめんよ。これから正門でみんなに朝のあいさつがしたいんだ」

「20分休みは?」

「20分休みは中学校で会議なんだよ…そうだ、昼休みはどうかな?」

「分かった。昼休みね。約束だよ」

その約束をすっぽかしてしまっていたのです。

たろうくんごめん。いろいろな人に連絡をしなくちゃいけなかったり、たくさんの人のお話を聞いていたりして、私はすっかり忘れちゃっていたんだ。

急いで1年生の教室に向かいます。

呼びに来てくれた2人の1年生、それぞれと右手と左手に手をつないで歩きます。

歩いていると、しばらくだまっていた右手につないでいた女の子が、たしかめるようにおもむろにつぶやきました。

「やっぱり、〇〇先生よりザリガニのほうがかわいいよ」

どうやら頭のなかで私とザリガニを比べていたみたい。

ああ、ザリガニにはかなわなかったか。くやしい。すると左手につないでいた子が言います。

「でも、〇〇先生のほうがかっこいいよ」

なんということでしょう。

あの大きなはさみの持ち主のザリガニにより、まさか私のほうがかっこいいなんて、とっても光栄。

すると反対から

「えー、だってザリガニはおめめがくりっくりなんだよ」

私だってつぶらなひとみがチャームポイントだよと言い返したくなりましたが、ぐっとこらえました。

ライバルはザリガニでした。

そんな2人の楽しいお話に耳をかたむけているとすぐに1年生の教室にたどりつきました。

あっ、たろうくんがいました。

「ごめーん!おそくなっちゃった。ごめんなさい。」

「いいよー、何して遊ぶ?」

うれしそうなたろうくんとしばらくバッタのいる草むらを見ながら楽しんでいると、すぐにチャイムが鳴ってしまいました。

「ごめんね。ちょっとしか遊べなかった」

「うん。もっと遊びたかった。でもさ、〇〇先生を探すの、楽しかったからいいよ!」

なんだか私もすごく楽しい休み時間でした。

幸せな仕事をしているなと思いました。

(たろうくんは仮名です)